2010年度 第2回受給者 秋山 優の体験記
2021.05
山口大学大学院医学系研究科病態制御内科学講座(第三内科)
講師 秋山 優
山口大学の秋山です。私は2010年6月~2013年3月までジョスリン糖尿病センター、Rohit Kulkarniのもとで研究留学をさせて頂きました。この間、多大な支援を頂きましたサンスター財団の方々には、この場を借りて改めて御礼申し上げます。 留学を終えてすでに8年が経過しました。今、振り返ってみると非現実的・非日常的な毎日であり、何だか夢のなかで過ごしていたような気分です。自然と懐かしさも込みあげてきます。改めて私自身の留学生活を振り返ってみたいと思います。今後、留学を志す人にとって少しでも参考になれば幸いです。
私自身が留学、海外で研究をしてみたいと思うようになったのは31歳のときでした。それまでは、いわゆる「意識低い系」の生活を送っており(毎日、飲みに行くことで頭がいっぱい)、研究留学など考えたこともありませんでした。それが31歳のとき、幸運にも自分自身の大学院での研究についてADA(米国糖尿病学会)学術集会で口演発表する機会を得ました。それまで英語の勉強は一切したことはなく、当然英語で会話することなど皆無でした。そのような状態で学会会場であるアメリカ、ワシントンに行き、ADAで口演発表を行ったのですが、もちろん質疑応答は対応できるわけがなく、非常に惨めで悔しい体験であったことを今でもよく覚えています。ただ私にとっては、この時のADA学術集会のなんとも言えない海外の雰囲気があまりに新鮮で、その後、海外留学に強い憧れを持つようになりました。また英語ができない悔しさから英語学習にも意欲的に取り組むようになりました。
その後、32歳で大学院を終えた後は基礎研究から離れ、一般病院で診療業務を行っていたのですが留学の希望は持ち続けていました。その結果、幸運にも35歳のときにボストンのジョスリン糖尿病センター、Kulkarni研究室に研究留学が決まったのです。4人家族(妻と5歳の長男、1歳の長女)での渡米です。ただ英語力は不十分、研究キャリアも大学院時代の4年間のみ、さらに基礎研究は3年間のブランクがある状況でしたので楽しみというよりは不安で一杯でした。当然のことながら渡米直後は公私ともに苦労が絶えず、「本当に留学して良かったのか?」という気持ちに何度もなったことを覚えています。ただ、振り返ってみると、辛かった経験は楽しい思い出と変わるようで、今では全てがいい思い出として残っています。また留学を通じて得たものが大きく、今となっては「留学して良かった」と自信を持って言えます。
ありきたりではありますが、一番の財産は人とのつながりができたことです。ボスであるRohit Kulkarniはもちろんですが、世界中から集まってきている同世代の研究者とつながりを持つことができました。同時に研究室のみならず、子供の学校を通じてなど日本国内の各大学、製薬会社等から来ている多くの同じような境遇の研究者、家族とのつながりも得ることができ、その後の人生において大きな財産となっています。
研究面については世界でもトップクラスと言われている研究室の実際を体験できたこともかけがえのない貴重な経験です。ただ、世界最先端と言っても実際におこなっていることは日本でも十分におこなうことが可能であり、人の質に関しても日本人は負けていないように感じました。一方、実験自体がシステム化されている点、それを可能にする資金、実験のみに集中できる環境などにより、実験をすすめていくスピード感は異なりました。
写真1 チャールズリバーからのボストンの眺め
いずれにしても実際にアメリカに住んでみないとわからないことは多く、異文化を経験することで明らかに視野は広がると思います。英語能力は留学中には期待した程は上達しませんでした。ただ、日本に帰った後も英語学習を継続すると留学中の経験と相まって、その後の上達にも効果があるように思います。私も最近になって英検1級を取得することができました。
写真2 ニューヨークの街並み
最後に、このような挑戦を積極的にサポートして頂いているサンスター財団には本当に感謝致します。私もサンスター財団の金田博夫研究助成基金の受賞者であることを誇りに思い、また留学で得た経験を胸に今後の臨床・研究にますます励んでいきたいと思います。