2014年度 第6回受給者 四釜 洋介の体験記

2021.05

国立長寿医療研究センター・口腔疾患研究部 副部長 四釜 洋介

私は歯学部5年生の頃から、漠然と研究留学してみたいと考える様になっていました。ちょうどこの時期に私が学んでいた東北大学では基礎実習というカリキュラムがあり、その面白さに気づき、実習終了後も続けて行きたいと思っていました。大学院生の時に、米国マサチューセッツ州ボストンにあるForsyth研究所との合同シンポジウムに参加する機会をいただき、ボストンを訪れた際に、研究留学への思いは一層強いものになりました。2010年に大学院を修了後、徳島大学で糖尿病などの代謝性疾患に関連した基礎研究・臨床研究に携わる様になりました。研究留学をお考えの先生方はご存じだと思いますが、留学助成金を獲得する為には、論文発表等の業績が必要になりますので、この時期は実験・学会発表・論文作成に勤しんでいました。並行して留学助成金に関する情報を集める中で、サンスター財団金田博夫研究助成基金の募集要項を読み、自分がこれまでやって来たこと、これからやって行きたい事とfitしていたので、ぜひ応募してみたいと考えました。

海外留学する上で考慮すべき点として、①留学先および②留学するタイミングが挙げられると思います。①に関しては金田博夫研究助成基金の場合、糖尿病研究のメッカであるハーバード大学医学部附属ジョスリン糖尿病センターで研究する事が出来るので、代謝性関連疾患に興味のある先生方にとってはとても魅力的だと思います。②に関しては、学位取得後すぐ、自身が主に携わっていた研究の関する論文がアクセプトになってから、または結婚・出産等がひと段落してから等、状況はそれぞれ異なると思います。私の場合は、博士号取得5年後、筆頭著者として執筆した論文が受理された後、妻、息子(当時4歳)とともに留学しました。研究留学と言っても研究する事が全てではなく、異国の地、日本とは異なる文化の中で生活基盤を築く必要があります。当時はとても大変な事だと感じていましたが、振り返ってみると、貴重な社会勉強になったと感じています。自身で自家用車の車両登録をした事(担当のおばちゃんにかなりいびられました)、独立記念日に自宅近くにアメリカ国旗を持った人がパラシュートで降りて来た事(写真1)、自宅近くに野生のカルガモ(写真2)や七面鳥(写真3)が生息している事等、日本では中々出来ない経験をさせてもらいました。

独立記念日に自宅近くにアメリカ国旗を持った人がパラシュートで降りて来た事(写真1)

野生のカルガモ(写真2)

野生の七面鳥(写真3)

留学前後で変わった事として、様々な価値観を受け入れられる様になった事が挙げられます。日本は島国で、ほぼ日本人の価値観で生活・仕事する事が出来ますが、多民族国家であるアメリカではその限りではありません。ジョスリンで研究していた時も、同じラボに日本人は私1人であった為、最初は苦労しましたが、しばらくするとそういう価値観もありなんだと受け入れられる様になりました。現在は外国人ポスドクを採用し一緒に仕事をしていますが、留学経験がなければこの決断は難しかったかもしれません。英語しか通じない環境に自分を置き、ラボや日常生活の中で何とか自分の意志を英語で伝え、相手の言っている事を理解するという経験があったからこそ、現在も何とか英語でやり取り出来ているのだと思います。さらに、留学して良かったと感じている事は、留学先での日本人研究者との出会いです。もちろん留学しなくても大学や研究所に所属していれば様々な研究者との交流はありますが、留学している先生方の高い志や才能にふれる事ができ、自分はまだまだだと痛感させられました。そのおかげで帰国後もその先生方の活躍を知る度に、自分も頑張らなければと奮い立たせる事が出来ます。異分野で活躍されているこれら先生方の研究内容から自分の研究テーマの方向性や新たな切り口を見つける事も出来、とても貴重であると感じています。留学するまでは、留学する事が一つのゴールと考えていましたが、人生はまだまだその先もあるので、そこで学んだ事を如何にして次に活かすか、5年後10年後を見据え人生設計を立てる事も重要だと思います。

近年、全身疾患が口腔内環境に及ぼす影響・口腔内環境が全身疾患の病態に与える影響が基礎研究・臨床研究から明らかになってきています。医学部・歯学部教育は共に6年間ありますが、私が歯学部学生の時は、入れ歯や被せ物の作り方・歯の削り方等に時間を費やす必要がある為、全身疾患の病態生理学に関する教育はほとんど受けなかったと記憶しています。大学院修了後、糖尿病とは何かをゼロから勉強し、徳島大学の先生方に色々教えてもらいながら研究を続け、留学、帰国し、現在に至ります。これから研究者を志す方には、敷かれたレールの上を進むのではなく、自らレールを敷き、方向や進む速さを決められる研究者になっていただきたいと考えております。また、研究は1人では出来ません。出会いや人との繋がりを大切にし、人間味ある研究者であって欲しいと考えており、私もそうありたいです。 最後になりましたが、ジョスリン糖尿病センターへの留学、並びに留学体験記執筆の機会を与えて頂きましたサンスター財団の関係者の皆様に厚く御礼申し上げ、本稿を終えたいと思います。